ドクターズブログ

ミクロの広がり、手術用顕微鏡 (2007年8月 7日 19:28)

形成外科専門医でもある美容外科医にとって手術用顕微鏡は必需品である。我々が行なうきめ細やかな操作を必要とする手術にはなくてはならない物なのである。
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たとえば{ブレファロプラスティー}と呼ばれる、眼瞼(上まぶたや下まぶた)をはじめとして内眼角形成(目頭切開)や外眼角形成(目尻切開)、眼瞼下垂の 手術はきわめて細かい作業内容が含まれるし、傷跡を極力目立たなくさせるには極細の糸で傷口をピッタリ合わせる必要があるのだ。さらには傷跡修正の手術や 鼻翼形成(小鼻縮小)上口唇短縮術(鼻下を短くする手術)、鼻柱形成(鼻の左右の穴の真ん中を前に出したりひっこめたりする手術等)、また乳頭の形成手術 では顕微鏡を利用して丁寧に縫合したものと肉眼だけで縫合したものではその結果がかなり異なってくる。肉眼では丁寧に縫ったつもりでも、顕微鏡でのぞいて みると微妙に縫い代がでこぼこしているのだ。これを顕微鏡でのぞきながら傷を縫うと辺縁どおしがピッタリ合うのだ。肌質にもよるが、手術用顕微鏡を使って 縫合すると抜糸後半年くらいで傷跡が落ち着き始めると、どこが傷跡なのか分からなくなってしまう事も多い。であるから、こだわりのある美容外科医や形成外 科医は細かな手術では必ず顕微鏡を使用する。
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形成外科専門医ならだれしもが慣れ親しんでいる技術が「マイロクサージェリー」である。
この技術では直径1mmにも満たない毛細血管や神経を繋ぐのである。ただ単に繋げるだけでは意味が無い。血管なら血管空を潰さないように血管の周りに8本 の糸で血管壁を接着する。再接着後一度止めた血液を流すと接着箇所より抹消の血管にすべらかに血液が流れなくてはならない。しかも血液が漏れる事は許され ない。
なにしろ直径が1mmであるから、髪の毛の1/5ほどの太さの糸を使用し0.2mm
間隔で縫い込んでいくのだ。
こうして、切断された指を再接着したり、血行を保ったまま組織を丸ごと移植したりすることができるのである。
もちろん、すぐ、こんな技術を習得できるはずはない。練習、トレーニングが必要になる。
形成外科専門医を目指そうとする医師はまず形成外科専門医養成施設(形成外科研修施設)に入局(医師の世界では就職のことを入局と呼ぶ事がある)しなくて はならない。専門医の卵達は入局試験に合格し入局を果たすと、形成外科専門医試験受験資格を得られる7年間という長い時間に向かって、研修、トレーニン グ、雑用に励むのだ。
この世界では日常的に先輩医師(専門医を取得した医師)が顕微鏡をのぞきこみながら手術をしているのを目にする。おのずと自分たちも練習しなければならないと自覚する。
私がはじめて手術用顕微鏡をのぞいたのは、入局後1年くらいたった頃であろうか。やっとの思いで顕微鏡手術の練習ができるような環境にめぐり会えたのである。私にマイクロサージェリーのテクニックを最初に伝授してくれたのは
当時私が勤務していたある総合病院の整形外科の若手医師の先生であった。彼は整形外科のなかでも「手の外科」を専攻していたため、自分の専門の手術をする 時はいつも顕微鏡を使用していた。手伝いどころか、足手まといになるとは感じていたが見学のつもりで手術に参加させてらう。まず、顕微鏡に目を慣らさなけ ればならない。最初の頃はめまいや吐き気、肩凝りに襲われたものだ。基本を習ったのち、毎日のように1日1時間程度と決め、細いシリコーンチューブを顕微 鏡で見ながら接着する。当初は手が震えほとんど縫う事すらできない。ある程度顕微鏡が扱えるようになると、ねずみ(ラット)の腹部大動脈や足の動脈を切っ ては繋ぐことを繰り返し練習する。つぎに静脈を切断しては再接着する。静脈を繋ぐのははとても難しい。なぜなら壁が薄く、ぺたんとなるとなかなか内空を保 ちながら血管壁を縫い込む事ができないのだ。これに成功するようになれば本物のマイクロサージェリーができるようになる。私の最初のマイクロサージェリー の成功は、人さし指を切断してしまったある患者さんであった。人の血管はねずみのものより太いため、実は本番のほうが簡単である。
こうして形成外科専門医を取得するころにはマイクロサージェリーは当たり前のテクニックになるのである。

私が大学に席をおきながら開業の道を選んだのは今から13年も前になる。開業医ともなり、おもに美容外科を専攻するようになると、マイクロサージェ リーはもはや無用の長物になるかと思いきや、このテクニックは必要不可欠になったのである。手術用顕微鏡は大変高価であるから、なかなか買う事ができな い。そこで最初のころは「額帯型顕微鏡」や「めがねタイプの顕微鏡(ルーペ)」を利用する。一般の美容外科医や形成外科医が良く使うタイプである。とても 使いやすいが視野が狭いのと、もう少し倍率がほしい時にはやや不便を感じる。

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額帯型顕微鏡 めがねタイプの顕微鏡(ルーペ)


p05.jpgな ぜ、こんな面倒なテクニックを使っているのかと言えば、かっこうをつけるわけではないが「向上心」だけである。手術用顕微鏡を使ったからといって手術価格 が上乗せされるわけでもない。例えて言うなら、記録に挑戦するオリンピック選手の心境だろう。形成外科専門医である美容外科医が、「完璧な手術を目指す」 ために超絶テクニックをマスターしたくなるのだ。

評判をあげたいなら、宣伝にいそしんだほうが早い。儲けたいなら、むしろマイクロサージェリーなんてやめたほうがいい。なぜなら、手術時間が倍もか かるからだ。丁寧な手術よりなるべく多くの患者さんを手術して売り上げを伸ばしたほうがいいはずだ。そうではなく、美しい手術、完璧な手術を目指すのが 「美容外科職人」の魂そのものであり、究極の縫合技術が美容外科医の基本でなくてはならないのである。

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