ドクターズブログ

額にまつわるエトセトラ2 (2015年12月 3日 00:57)

hitai_img01.pngさて、前回の続きですが、「前額」という言葉がどこから使われ始めたのか、調べてみました。

古来、成人男子が冠や烏帽子をかぶった時に抜け落ちる部分もしくはチョンマゲを結うために剃った前頭部のことを「月代(さかやき)」といっていたそうですが、月代のことを「額月(ひたいつき)」と14世紀の太平記には記載されています。ですが、「前」とは書かれていません。
1923年の文学には「前額に垂らした束髪...(内田魯庵 三十年前の島田沼南)」などの表現がでておりますので、この間に呼ばれ始めたのではないかと推測されます。

もう少し医学的に調べてみるとします。
解剖学的用語はラテン語ですが、おでこの部分はfrons その部分の骨はos frontalisと言います。
車のフロントガラスと言われるようにfroという語は前方にと言っ意味ですので、現代ではfrons Os frontalisは、前頭部・前頭骨で表されることになり、額は前頭部として一緒くたにされています。

言語を日本語に翻訳する時、それにもともとその単語に合致する日本語がある場合はそのまま使われますが、存在しない場合には新しく単語を作るという作業が行われることになります。
新しい文化が入ってくる時にこのようなことは活発に行われます。(例えば、明治期の西周の「百学連環」は有名です。彼は多くの単語を作りました。)

hitai_img02.png日本で解剖学が発展し始めたきっかけの一つに、かの有名な「解体新書」が作られたことがあげられます。
1773年に杉田玄白らが「ターヘルアナトミア(Anatomische Tabellen)」のオランダ語訳をさらに日本語に翻訳したものになりますが、解体新書には「額者従眉上至髪際也(額は眉上から髪の生え際にいたる部分である」と書かれており、額の上を「前頂」と呼び、頂の下を「後頂」と呼ぶと書かれています。(額は五、前頂は一、後頂は二 画像はすべて国立図書館デジタルコレクションより転載)

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この時にはまだ「前額」や「前頭・後頭」といった言葉は用いられておりません。
hitai_img05.png1822年(文政5年)にベルギーの外科医ジャン・パルファンの著書「Anatomia chirurgica」を、斎藤方策と中天遊が共訳した「把爾翕湮解剖図譜(パルレインかいぼうずふ)」になると、「額骨」、「後頭骨」といった言葉がみられます。

まあ、これは翻訳をするにあたり、日本語にある言葉は、そのまま用いられるわけですから、当然のことでしょう。


しばらくこの「額骨」といった記載は続きます。
医範提綱内象銅版図(1808年)、虞列伊氏(グレイ氏)解剖訓蒙図(1872年)ともにOs frontalisは「額骨」と記載されております。  
hitai_img06.pnghitai_img07.png
hitai_img08.png「額骨」が「前頭骨」に呼び換えられる転換期はいつなのでしょうか?
はたして「前額」という言葉は出てくるのでしょうか?

ここで、1877年(明治9年)日本初の日本人による解剖学書が作られます。今までは洋書の翻訳がメインでしたので、これは画期的なことです。著者は近代日本解剖学の祖こと田口和美博士(東京大学解剖学教室初代教授)です。
多くの解剖を行った経験を元に「解剖攬要」という解剖書を書きます。

解剖学的用語の解説がメインの本なのですが、
あった!ありました「前頭骨」という言葉。
さらに「前頭骨」の説明部分には「前頭部とは・・・・ゆえに別けて前額部、左右眼窩部、鼻部となす」と書かれれております。初めて「前」頭部という言葉を使用していますが、同時に額にも「前」をつけてしまっています。この解剖書以降の手術書には「前額部」といった言葉が良く使用されることになります。

ということで、前額部という言葉はfrontalisに対して「前」という意味合いをだすことと、古来の日本語である額という言葉を残すという意味で「前額」という言葉を生み出したのではないかと考えますが、詳しい経緯は残念がらわかりませんでした。

ちなみに田口和美博士は当院から15分程度の染井霊園に眠っていらっしゃいます。ソメイヨシノ発祥の地として、春は美しい桜が舞い散る場所ですね。
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(出典 : 【豊島区】雑司が谷霊園・染井霊園MAP)

さて波平さんの額の広さはどうなんでしょうか。
左右の「もみ上げ 」の延長線上が、おおよその前頭骨の上縁ですので、そこまでが額であると言えます。
そうみると、波平さんの額は以外に狭いかもしれません。

ということで、次回?は額にできる鬼の角?について考察してみたいと思います。

酒井形成外科 苅部大輔

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