隆鼻術 (前編)

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隆鼻術は鼻根部から鼻背部、鼻尖部にいたる鼻筋を整えながらこれを高めていく、古来から存続する美容外科手術です。近年、隆鼻術に関して、移植材料の多様性が出てきました。

さて、今回は、安全性や術後の感触など、どの材料、あるいはどの様な手術法が最も推奨できるのかという質問です。(前編)

Q) 隆鼻を希望しています。鼻全体が低く、特に、目と目の間の高さがほとんどありません。希望は、私の顔に合わせて自然な鼻筋です。外国の方の様な鼻筋の高さは望んでいません。
最近、相談に行ったクリニックでは、肋軟骨移植を勧めるところと、シリコーンプロテーゼを勧めるところがありました。プロテーゼはいわゆるI 型が良いそうです。また、あるクリニックでは、鼻の付け根は短めのI 型プロテーゼ、鼻先と鼻柱は耳介軟骨の移植がお勧めと言われました。中には、ゴアテックス線維の移植を勧めている所もありました。
ところで、私の友人は韓国で肋軟骨移植による隆鼻術を受けたのですが、鼻全体がカチカチに硬くて不自然と嘆いていました。肋軟骨移植での隆鼻術は一見シュッとして綺麗に見えますが、やはり硬くなるのでしょうか?
酒井形成外科でのご意見を伺いたいと思います。

A) 隆鼻を行う場合、鼻根部(鼻の目と目の間)はもとより、鼻背部も高く修正し、鼻尖部(鼻の頭)ではやや鼻先を尖らせる事が多いと思います。最近では隆鼻のために移植される物質も多様性がでてきました。シリコーンプロテーゼ、肋軟骨、ゴアテックス等が多く利用されています。
この中でも私はシリコーンプロテーゼがもっとも安全性に長けていると考えています。しかも現在のシリコーンプロテーゼはかなり柔らかく組織になじみ易くなっていて、移植後の問題点は激減しています。プロテーゼとともに鼻尖部に自家組織である耳介軟骨や筋膜あるいは真皮を使用すれば鼻尖部の形態を整えた上で安全性も確保できます。プロテーゼがもっとも優れているところは、もし、これを除去する場合、きわめて簡単に切除できることです。
移植材料に関しては研究がなされ新しいものが開発され続けています。いずれは、ゴアテックスやシリコーン、肋軟骨にかわる新しい医療材料が開発されるはずです。その時、新しい素材に変更する場合でも、シリコーンプロテーゼであれば、たやすく交換ができるでしょう。
ゴアテックスや肋軟骨は除去が困難な上に、肋軟骨では、移植後の変形も問題視されています。さらに、これらの素材は鼻尖部や鼻柱の異常な硬さも問題です。
鼻のシリコーンプロテーゼといえばL型仕様とI型仕様があります。近年I型を選択する医師が多いと思いますが、実はそれぞれ欠点と利点があります。
L型は、鼻根部を骨膜下に固定したうえで鼻中隔部にも固定できるため、プロテーゼが曲がることなく安定して固定されます。しかし、鼻尖部の皮膚に負荷がかかり易く、場合によっては皮膚の破裂やプロテーゼの脱出の合併症を招きます。
I型は、鼻根部だけで固定されるためプロテーゼが曲がり易く(プロテーゼの変位)、また、短いプロテーゼであれば、鼻尖部は軟骨の移植等で賄わねばなりません。もし、長いI型プロテーゼを使用すれば、鼻尖部はL型と全く同じになり、鼻尖部皮膚へ影響を与えてしまいます。したがって、I型プロテーゼによる隆鼻術では、短いプロテーゼを選択し、鼻根部ではプロテーゼで隆鼻を行うものの、鼻尖部は耳介軟骨の移植等で形成を余儀なくされます。この場合、プロテーゼを除去する場合は一度鼻尖部を大きく広げる必要があり、修正は面倒になります。
そこで、私は、とても柔らかいL型シリコーンと耳介軟骨や真皮を利用したハイブリッド手術を提言しています。これは、鼻根部は適度な高さのシリコーンプロテーゼ、鼻尖部は極めて薄くしたシリコーンプロテーゼに耳介軟骨と真皮をのせた状態、鼻中隔部や鼻柱部は極めて細くしたシリコーンプロテーゼに軟骨や真皮を巻きつけてシリコーンが鼻尖部皮膚を障害することを防ぎます。このハイブリッド手術では、鼻腔内の鼻柱部を少量切開するだけで簡単にプロテーゼを除去できるのが最大の特徴になります。また、鼻尖部はほぼ、耳介軟骨と真皮で形成されるため、軟骨単独移植よりとても柔らかく自然な感じが表現できるのも長所ということができるでしょう。
そして、簡単にプロテーゼが除去できることは、将来の新しい隆鼻術への変更の容易さにもつながります。

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隆鼻症例:隆鼻と鼻尖形成を希望された患者様です。シリコーンプロテーゼと耳介軟骨、真皮移植を伴うコンポジットグラフトで形成しました。

手術費用(モニター価格)50万円

合併症、リスク:感染、皮膚の血行障害、皮膚潰瘍、プロテーゼの位置異常、血腫、色素沈着、等

[コメント(前編)]

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鼻部の名称を上の図に示しました。

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鼻は上から1/3程度が鼻骨という骨組織で、またその2/3は軟骨組織で外形が構成されています。骨でできている鼻根部は硬く固定されていますが、軟骨や皮膚、軟部組織で構成されている鼻尖部や鼻柱、あるいは鼻孔縁では、とても柔らかい手触りです。

 さて、私たちの考案する隆鼻術では、以下の条件をなるべく満たすことが大切と考えています。

  1. 安全性が高いこと。
  2. 将来の新しい素材への交換性を考慮し、移植されてインプラント材料は簡単に除去できること。
  3. 手術処置は簡易で患者様になるべく負担がかからないようにすること。
  4. 美しい形態を表現できること。
  5. 長期間美しさを保持すること。

これらの条件を追求すると、現在、隆鼻のためのインプラント材料として最適なものは柔らかいシリコーンプロテーゼで、鼻尖部に膨らみがないものを選択すべきと考えました。
肋軟骨は石灰化や変形の可能性、また、移植後に著しい硬さが残ることから適材にはなりにいくいのですが、シリコーンプロテーゼが使用できない条件では、移植の対象にはなるかもしれません。

鼻尖部の形成を希望する場合は、耳介軟骨と真皮移植で鼻尖形成をおこないます。けっしてシリコーンで鼻尖部を隆起させてはなりません。

そこで、私たちは、柔らかいL型シリコーンプロテーゼの鼻尖部を薄く削り、ここに耳介軟骨と真皮を接着しコンポジット(複合体)を作成しています。これを、上は鼻骨骨膜下に、下は両側の大鼻翼軟骨の間に固定します。鼻筋は上下で固定していますので、変位することはありません。また、2箇所で固定しているため、プロテーゼがすり落ちることもありません。また、鼻尖部は直組織で作れているため、皮膚が菲薄化したり、組織が破綻することもまずありえないと考えています。

手術では、患者様に移植するコンポジットは体外で作成されるため、手術中の患者様の不快感は極めて少ないことも特徴です。コンポジットを作成することは、とても芸術的で職人技ではありますが、これさえ終われば手術は比較的簡単で短時間で終了します。しかも、将来、新しい優れた材料が発明されたとしても、簡単に交換ができるので、将来性にも問題は少ないと見積もっています。

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柔らかいシリコーンプロテーゼのの鼻尖部を削り、そこに耳介軟骨と真皮を接着し、コンポジットを作ります。

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コンプジットをインプラントするのは、比較的簡単に行えます。