隆鼻術 (後編)

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隆鼻術は鼻根部から鼻背部、鼻尖部にいたる鼻筋を整えながらこれを高めていく、古来から存続する美容外科手術です。近年、隆鼻術に関して、移植材料の多様性が出てきました。

さて、今回は、安全性や術後の感触など、どの材料、あるいはどのような手術法が最も推奨できるのかという質問です。(後編)

Q) 隆鼻を希望しています。鼻全体が低く、特に、目と目の間の高さがほとんどありません。希望は、私の顔に合わせて自然な鼻筋です。外国の方の様な鼻筋の高さは望んでいません。

最近、相談に行ったクリニックでは、肋軟骨移植を勧めるところと、シリコーンプロテーゼを勧めるところがありました。プロテーゼはいわゆるI 型が良いそうです。また、あるクリニックでは、鼻の付け根は短めのI 型プロテーゼ、鼻先と鼻柱は耳介軟骨の移植がお勧めと言われました。中には、ゴアテックス線維の移植を勧めている所もありました。

ところで、私の友人は韓国で肋軟骨移植による隆鼻術を受けたのですが、鼻全体がカチカチに硬くて不自然と嘆いていました。肋軟骨移植での隆鼻術は一見シュッとして綺麗に見えますが、やはり硬くなるのでしょうか?

酒井形成外科でのご意見を伺いたいと思います。

A) 隆鼻を行う場合、鼻根部(鼻の目と目の間)はもとより、鼻背部も高く修正し、鼻尖部(鼻の頭)ではやや鼻先を尖らせる事が多いと思います。最近では隆鼻のために移植される物質も多様性がでてきました。シリコーンプロテーゼ、肋軟骨、ゴアテックス等が多く利用されています。

この中でも私はシリコーンプロテーゼがもっとも安全性に長けていると考えています。しかも現在のシリコーンプロテーゼはかなり柔らかく組織になじみ易くなっていて、移植後の問題点は激減しています。プロテーゼとともに鼻尖部に自家組織である耳介軟骨や筋膜あるいは真皮を使用すれば鼻尖部の形態を整えた上で安全性も確保できます。プロテーゼがもっとも優れているところは、もし、これを除去する場合、きわめて簡単に切除できることです。

移植材料に関しては研究がなされ新しいものが開発され続けています。いずれは、ゴアテックスやシリコーン、肋軟骨にかわる新しい医療材料が開発されるはずです。その時、新しい素材に変更する場合でも、シリコーンプロテーゼであれば、たやすく交換ができるでしょう。

ゴアテックスや肋軟骨は除去が困難な上に、肋軟骨では、移植後の変形も問題視されています。さらに、これらの素材は鼻尖部や鼻柱の異常な硬さも問題です。

鼻のシリコーンプロテーゼといえばL型仕様とI型仕様があります。近年I型を選択する医師が多いと思いますが、実はそれぞれ欠点と利点があります。L型は鼻根部を骨膜下に固定したうえで鼻中隔部にも固定できるため、プロテーゼが曲がることなく安定して固定されます。しかし、鼻尖部の皮膚に負荷がかかり易く、場合によっては皮膚の破裂やプロテーゼの脱出の合併症を招きます。I型は鼻根部だけで固定されるためプロテーゼが曲がり易く(プロテーゼの変位)、また、短いプロテーゼであれば、鼻尖部は軟骨の移植等でおぎなわねばなりません。もし、長いI型プロテーゼを使用すれば、鼻尖部はL型と全く同じになり、鼻尖部皮膚へ影響を与えてしまいます。したがって、I型プロテーゼによる隆鼻術では、短いプロテーゼを選択し、鼻根部ではプロテーゼで隆鼻を行うものの、鼻尖部は耳介軟骨の移植等で形成を余儀なくされます。この場合、プロテーゼを除去する場合は一度鼻尖部を大きく広げる必要があり、修正は面倒になります。

そこで、私は、とても柔らかいL型シリコーンと耳介軟骨や真皮を利用したハイブリッド手術を提言しています。これは、鼻根部は適度な高さのシリコーンプロテーゼ、鼻尖部は極めて薄くしたシリコーンプロテーゼに耳介軟骨と真皮をのせた状態、鼻中隔部や鼻柱部は極めて細くしたシリコーンプロテーゼに軟骨や真皮を巻きつけてシリコーンが鼻尖部皮膚を障害することを防ぎます。このハイブリッド手術では、鼻腔内の鼻柱部を少量切開するだけで簡単にプロテーゼを除去できるのが最大の特徴になります。また、鼻尖部はほぼ、耳介軟骨と真皮で形成されるため、軟骨単独移植よりとても柔らかく自然な感じが表現できるのも長所ということができるでしょう。

そして、簡単にプロテーゼが除去できることは、将来の新しい隆鼻術への変更の容易さにもつながります。

p01.png p02.png

隆鼻症例:隆鼻と鼻尖形成を希望された患者様です。シリコーンプロテーゼと耳介軟骨、真皮移植を伴うコンポジットグラフトで形成しました。

手術費用(モニター価格)50万円

合併症、リスク:感染、皮膚の血行障害、皮膚潰瘍、プロテーゼの位置異常、血腫、色素沈着、等

[コメント(後編)]

隆鼻で使用する材料の選択

1)肋軟骨移植

日本の形成外科では、鼻のみならず、耳介や顔面の一部の再建に肋軟骨を多用してきました。その結果、肋軟骨が数年で変形してくることは形成外科専門医であればよく知っていることなのです。ですから、隆鼻や鼻尖形成で、肋軟骨を使いたがらない専門医は多いはずです。また、肋軟骨移植後の変形修正には少なからず難渋することが多く、安易に肋軟骨を移植するのは問題があると考えます。肋軟骨移植での隆鼻・鼻尖形成は術後早期では、実に綺麗に仕上がります。しかし、本来の柔らかさが無く、硬い感触の鼻になり、これをいやがる患者様も多く見受けられます。

2)ゴアテックス

ゴアテックスは厚労省で認可された医療材料で、筋膜、腹膜、脳硬膜、などの人体の膜組織の代用としてひろく応用されています。組織親和性がよく安全性も高いと言われています。

隆鼻にも応用されていますが、一つだけ問題点があります。それは、除去が困難だということです。もし、二度と鼻の形を変えないというなら、ゴアテックスも良い材料になるでしょう。しかし、ゴアテックス移植後、修正を希望する場合は、かなりの問題を提起します。隆鼻術はまだ、発展途上といえますので、今後、手術法や材料にも大きな変化が出てくると思います。その時、ゴアテックスが除去できない、あるいは、除去する際大きな変形を伴うとしたら、これは問題になりそうです。

3)耳介軟骨

両側の耳介軟骨をうまく採取しても、その絶対量が不足しがちですので、きれいな隆鼻と鼻尖形成を完成させるには無理がありそうです。

4)人工骨

ハイドロキシアパタイトの顆粒状材料です。骨性組織である鼻根部の隆鼻にはきわめて良い結果をもたらします。ハイドロキシアパタイトの顆粒はいずれ自家骨になりますので、安全性が高いといえます。しかし、鼻尖部や鼻柱、さらに鼻背部の下半分には移植が困難なため、耳介軟骨の移植とともにデザインをしなくてはなりません。万が一、修正の場合は、移植人工骨を削り取ることは可能です。

5)シリコーンプロテーゼ

初期のものは人体の鼻背軟骨の硬さを模倣したため、硬すぎてしまいました。現在のものはかなり柔らかくなり、皮膚への刺激も激減しました。鼻根部では鼻骨骨膜下に固定し、L型では、先端部を鼻中隔部に固定できます。(I型では鼻中隔部に固定できません)

また、L型の鼻尖部や鼻柱部に耳介軟骨や真皮を接着して移植すると、簡単に直軟骨による鼻尖形成や鼻柱形成、あるいは鼻中隔延長術が可能です。
さらに、必要に応じ、鼻腔内の少量の切開で比較的簡単にプロテーゼを除去できます。このことは、将来、新しい材料との交換が簡単であることを示唆します。

L型とI型のシリコーンプロテーゼの比較

I型シリコーンプロテーゼ

鼻根部から鼻背部の上部へ移植するプロテーゼです。鼻骨の骨膜下のみで固定されるため、プロテーゼの下方移動や左右のブレ移動がおこりやすい事が欠点です。また、移植は簡単でも、除去の際、プロテーゼが見つかりにくいことも欠点となるでしょう。しかし、鼻尖部にはプロテーゼが届かないため、鼻尖部皮膚の菲薄化が起こりにくく破綻も少ないのが利点です。

fig1.pngI型プロテーゼは鼻骨の骨膜下に固定されています。

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骨膜がプロテーゼから浮いていたりすると、I型プロテーゼは容易に左右に変位してしまいます。
プロテーゼの変位では、鼻が曲がって見えたり、鼻尖部が変形したり、場合によってはL型と同様に鼻尖部皮膚の崩壊を招くことがあります。

2)L型シリコーンプロテーゼ(先端を薄くした場合)

L型プロテーゼをインプラントする場合は、鼻根部では鼻骨の骨膜下に固定し、鼻尖部では鼻中隔にも固定します。鼻尖部にボリュームを残せば、鼻尖部を尖らせるようにできます。もし、鼻尖部でのシリコーンのボリュームを少なくすれば、鼻尖部はほとんど変化することはありませんし、鼻尖部皮膚の影響を与えることも少ないと考えます。

fig3.png3) L型シリコーンプロテーゼ(先端で鼻尖を作る場合)

通常L型プロテーゼは鼻尖部が尖るように厚さがあります。これをこのまま鼻に移植すると鼻尖部は尖り、綺麗に見えますが、後日、鼻尖部の皮膚を菲薄化させ、最終的には鼻尖部を破綻させることがあります。

fig4.png5) L型プロテーゼを利用したハイブリッド仕様
(プロテーゼと耳介軟骨、真皮を利用したコンポジットによる隆鼻)

柔らかいL型シリコーンプロテーゼの鼻尖部に、ご自分の自家組織である耳介軟骨と真皮を接着しコンポジット(複合体)を作成します。これをシンプルに鼻筋に移植する手術は極めて単純です。コンポジットの作成は人体外で行われますので、手術中の不快感はとても少ないのです。コンポジットの作成には職人技が必要とはいえ、移植はシンプルですので手術時間も短くて済みます。

また、シリコーンプロテーゼは簡単に除去できますので、将来の新素材への交換もたやすく行うことができます。

fig5.png隆鼻の新しい材料とは?

今後医学はまだまだ発展し続けます。当然医療材料もいろいろ試行錯誤されるでしょう。

私が特に注目しているのが、培養軟骨です。まだ、実現はしていませんが、必ず隆鼻の材料として注目されると思います。

おそらく、少量の耳介軟骨とあなたの血液があれば、数ヶ月で20cm2程度の軟骨を作ることができるでしょう。場合によっては培養真皮や人工骨も利用されるでしょう。

再生医療は現在最も注目されている分野でもあります。近い将来、再生医療にを応用した隆鼻手術が実現するかもしれません。

隆鼻術 (前編)

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隆鼻術は鼻根部から鼻背部、鼻尖部にいたる鼻筋を整えながらこれを高めていく、古来から存続する美容外科手術です。近年、隆鼻術に関して、移植材料の多様性が出てきました。

さて、今回は、安全性や術後の感触など、どの材料、あるいはどの様な手術法が最も推奨できるのかという質問です。(前編)

Q) 隆鼻を希望しています。鼻全体が低く、特に、目と目の間の高さがほとんどありません。希望は、私の顔に合わせて自然な鼻筋です。外国の方の様な鼻筋の高さは望んでいません。
最近、相談に行ったクリニックでは、肋軟骨移植を勧めるところと、シリコーンプロテーゼを勧めるところがありました。プロテーゼはいわゆるI 型が良いそうです。また、あるクリニックでは、鼻の付け根は短めのI 型プロテーゼ、鼻先と鼻柱は耳介軟骨の移植がお勧めと言われました。中には、ゴアテックス線維の移植を勧めている所もありました。
ところで、私の友人は韓国で肋軟骨移植による隆鼻術を受けたのですが、鼻全体がカチカチに硬くて不自然と嘆いていました。肋軟骨移植での隆鼻術は一見シュッとして綺麗に見えますが、やはり硬くなるのでしょうか?
酒井形成外科でのご意見を伺いたいと思います。

A) 隆鼻を行う場合、鼻根部(鼻の目と目の間)はもとより、鼻背部も高く修正し、鼻尖部(鼻の頭)ではやや鼻先を尖らせる事が多いと思います。最近では隆鼻のために移植される物質も多様性がでてきました。シリコーンプロテーゼ、肋軟骨、ゴアテックス等が多く利用されています。
この中でも私はシリコーンプロテーゼがもっとも安全性に長けていると考えています。しかも現在のシリコーンプロテーゼはかなり柔らかく組織になじみ易くなっていて、移植後の問題点は激減しています。プロテーゼとともに鼻尖部に自家組織である耳介軟骨や筋膜あるいは真皮を使用すれば鼻尖部の形態を整えた上で安全性も確保できます。プロテーゼがもっとも優れているところは、もし、これを除去する場合、きわめて簡単に切除できることです。
移植材料に関しては研究がなされ新しいものが開発され続けています。いずれは、ゴアテックスやシリコーン、肋軟骨にかわる新しい医療材料が開発されるはずです。その時、新しい素材に変更する場合でも、シリコーンプロテーゼであれば、たやすく交換ができるでしょう。
ゴアテックスや肋軟骨は除去が困難な上に、肋軟骨では、移植後の変形も問題視されています。さらに、これらの素材は鼻尖部や鼻柱の異常な硬さも問題です。
鼻のシリコーンプロテーゼといえばL型仕様とI型仕様があります。近年I型を選択する医師が多いと思いますが、実はそれぞれ欠点と利点があります。
L型は、鼻根部を骨膜下に固定したうえで鼻中隔部にも固定できるため、プロテーゼが曲がることなく安定して固定されます。しかし、鼻尖部の皮膚に負荷がかかり易く、場合によっては皮膚の破裂やプロテーゼの脱出の合併症を招きます。
I型は、鼻根部だけで固定されるためプロテーゼが曲がり易く(プロテーゼの変位)、また、短いプロテーゼであれば、鼻尖部は軟骨の移植等で賄わねばなりません。もし、長いI型プロテーゼを使用すれば、鼻尖部はL型と全く同じになり、鼻尖部皮膚へ影響を与えてしまいます。したがって、I型プロテーゼによる隆鼻術では、短いプロテーゼを選択し、鼻根部ではプロテーゼで隆鼻を行うものの、鼻尖部は耳介軟骨の移植等で形成を余儀なくされます。この場合、プロテーゼを除去する場合は一度鼻尖部を大きく広げる必要があり、修正は面倒になります。
そこで、私は、とても柔らかいL型シリコーンと耳介軟骨や真皮を利用したハイブリッド手術を提言しています。これは、鼻根部は適度な高さのシリコーンプロテーゼ、鼻尖部は極めて薄くしたシリコーンプロテーゼに耳介軟骨と真皮をのせた状態、鼻中隔部や鼻柱部は極めて細くしたシリコーンプロテーゼに軟骨や真皮を巻きつけてシリコーンが鼻尖部皮膚を障害することを防ぎます。このハイブリッド手術では、鼻腔内の鼻柱部を少量切開するだけで簡単にプロテーゼを除去できるのが最大の特徴になります。また、鼻尖部はほぼ、耳介軟骨と真皮で形成されるため、軟骨単独移植よりとても柔らかく自然な感じが表現できるのも長所ということができるでしょう。
そして、簡単にプロテーゼが除去できることは、将来の新しい隆鼻術への変更の容易さにもつながります。

fig1.png fig2.png

隆鼻症例:隆鼻と鼻尖形成を希望された患者様です。シリコーンプロテーゼと耳介軟骨、真皮移植を伴うコンポジットグラフトで形成しました。

手術費用(モニター価格)50万円

合併症、リスク:感染、皮膚の血行障害、皮膚潰瘍、プロテーゼの位置異常、血腫、色素沈着、等

[コメント(前編)]

fig3.png

鼻部の名称を上の図に示しました。

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鼻は上から1/3程度が鼻骨という骨組織で、またその2/3は軟骨組織で外形が構成されています。骨でできている鼻根部は硬く固定されていますが、軟骨や皮膚、軟部組織で構成されている鼻尖部や鼻柱、あるいは鼻孔縁では、とても柔らかい手触りです。

 さて、私たちの考案する隆鼻術では、以下の条件をなるべく満たすことが大切と考えています。

  1. 安全性が高いこと。
  2. 将来の新しい素材への交換性を考慮し、移植されてインプラント材料は簡単に除去できること。
  3. 手術処置は簡易で患者様になるべく負担がかからないようにすること。
  4. 美しい形態を表現できること。
  5. 長期間美しさを保持すること。

これらの条件を追求すると、現在、隆鼻のためのインプラント材料として最適なものは柔らかいシリコーンプロテーゼで、鼻尖部に膨らみがないものを選択すべきと考えました。
肋軟骨は石灰化や変形の可能性、また、移植後に著しい硬さが残ることから適材にはなりにいくいのですが、シリコーンプロテーゼが使用できない条件では、移植の対象にはなるかもしれません。

鼻尖部の形成を希望する場合は、耳介軟骨と真皮移植で鼻尖形成をおこないます。けっしてシリコーンで鼻尖部を隆起させてはなりません。

そこで、私たちは、柔らかいL型シリコーンプロテーゼの鼻尖部を薄く削り、ここに耳介軟骨と真皮を接着しコンポジット(複合体)を作成しています。これを、上は鼻骨骨膜下に、下は両側の大鼻翼軟骨の間に固定します。鼻筋は上下で固定していますので、変位することはありません。また、2箇所で固定しているため、プロテーゼがすり落ちることもありません。また、鼻尖部は直組織で作れているため、皮膚が菲薄化したり、組織が破綻することもまずありえないと考えています。

手術では、患者様に移植するコンポジットは体外で作成されるため、手術中の患者様の不快感は極めて少ないことも特徴です。コンポジットを作成することは、とても芸術的で職人技ではありますが、これさえ終われば手術は比較的簡単で短時間で終了します。しかも、将来、新しい優れた材料が発明されたとしても、簡単に交換ができるので、将来性にも問題は少ないと見積もっています。

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柔らかいシリコーンプロテーゼのの鼻尖部を削り、そこに耳介軟骨と真皮を接着し、コンポジットを作ります。

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コンプジットをインプラントするのは、比較的簡単に行えます。

人中短縮術

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人中短縮手術はとても難しい手術です。その基本になっているのが、唇裂手術の口輪筋吊り上げの理論です。この理論を理解して人中短縮手術を行えるとしたら、形成外科専門医の中でも唇裂手術をこなした医師に他なりません。

Q) 私は鼻の下が長く、以前から、人中短縮手術を受けたいと思っていました。私の鼻の下は25mmもあり、できたら半分くらいにしたいです。そこで、いろいろなクリニックに行って相談してみました。すると、鼻の下の皮膚は1cmまで切り取れるとか、皮膚は切り取らないでも短縮できるとか、傷跡が汚なくなるので勧めないとか、担当医によって意見がバラバラだったのです。また、筋肉は触らず、皮膚だけ切除するといったところが多くありました。
ところが、酒井形成外科のホームページの症例やインスタグラムの症例をみると、とても自然で綺麗になっていると思いました。特に傷跡がまったくめだっていないのにびっくりしました。そこで、お聞きしたのですが、酒井形成外科での人中短縮手術の実情はどのようなものなのでしょうか?また、私はどの程度人中を短くできるのでしょうか?

A) 人中短縮手術や、人中形成手術(鼻の下にできる、2つの峰とその間の凹んだ形態構造(=これを人中構造という)を形成する手術)では、口輪筋の処置が中心となります。
つまり、口輪筋の前鼻棘(ANS)(鼻柱の最も下方にある骨と軟骨でできた棘状の突起)への釣りあげ(サスペンジョン)をしっかり行えば、鼻の下の皮膚の切除は最小で十分なのです。私はせいぜい2mm程度の皮膚の切除しかせず、鼻の下の長さを半分にまですることができると考えています。皮膚切除が少なければ、皮膚の緊張が減り、傷跡も概ねきれいになるものです。
あなたの場合、確かに鼻の下は20mm以上ありそうですが、25mmはちょっとオーバーかもしれません。鼻孔底隆起(ノストリルシル)の直下で皮膚切開をおこないます。皮膚切除はおそらく2mmで十分でしょう。
口輪筋の人中窩の部分を切除し、口輪筋をANSに吊り上げます。あとは、丁寧に縫合すれば見違えるほど鼻の下は短くなります。
しかし、傷跡はすぐには綺麗にはなりません。一時的に硬く、少し盛り上がるかもしれません。また、一時的に赤みがでてきますが、3ヶ月程度ですこし落ち着くでしょう。縫合技術が優れている、形成外科専門医の手術を受け、アフターケアもしっかり行う様にします。

[コメント]

もともと、口輪筋は口唇の周囲を取り巻く様に存在する大きな筋肉で、鼻柱基部の上顎骨の突起である前鼻棘(ANS)ヘの強力な付着で機能しています。この口輪筋の付着を挙げる事で、鼻の下の組織が上へ押し上げられ、皮膚が縮み、結果的に鼻の下は短くなるのです。これは、唇裂手術の基本である口輪筋の挙上の応用なのです。

とかくに、人中短縮は鼻の下の皮膚を切除すると考えられがちですが、それは大きな間違いです。皮膚を切除すればするほど傷跡に緊張がかかり、傷跡が広がります。また、鼻孔や鼻柱の形態が変化して、不自然になるのです。

ここでもう一つの注意ですが、鼻孔底隆起(ノストリルシル)は決して無くしてはなりません。美容外科医師の中には、鼻孔底隆起ごと皮膚を切除すると鼻孔内に傷跡を隠せると説明し鼻孔底隆起を切り取ってしまう症例があります。かなり不自然感が出てしまうのですが、修正は極めて困難なのです。
鼻孔底隆起を残しながら傷跡を極力目立たなくさせるのが、人中短縮手術の大切な方法論になるのです。

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さて、人中短縮手術では、傷跡の綺麗さがとても重要になります。人中が短くなっても鼻の下に大きな傷跡が残ってしまっては、がっかりですよね。

傷跡は周囲の緊張が強いと汚く目立つようになり、緊張が少ないと綺麗になる傾向になります。したがって、口輪筋の吊り上げで人中部を短くし、皮膚の切除はなるべく最低にするようにデザインを施します。

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すなわち、鼻の下の口輪筋を 軟骨のANに吊り上げながら縮め、その上の皮膚を収縮させて鼻下の短縮を行うべきなのです。個人の肌質にもよりますが、皮膚に緊張力が少ないと傷跡は綺麗になるものなのです。

fig3.png fig4.png
【術前】 【術後1年】

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術後1年の傷跡です。思ったよりずっと傷跡が綺麗と感じられますね。

症例は鼻の下が長いのが気になっていた患者様です。人中短縮形成を行いました。
口輪筋の前鼻棘への釣り上げがポイントです。

手術費用(モニター価格):35万円

合併症、リスク:傷跡の目立ち、感染、色素沈着、閉口障害、傷跡周囲の感覚障害、など

老人の目の代表、上まぶたのタルミの改善

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若い頃はきれいな二重まぶただったのに、年齢を重ねるとともに、上まぶたの目尻が垂れ、目が三角形に小さくなってしまうことは誰にでもおこります。垂れ込む上まぶたにより、二重線も奥に移動し、重瞼線が見えなくなります。これを修正して、若さを取り戻したいという質問です。

Q) 48歳の女性です。若い頃には比較的しっかりした二重まぶたでした。30歳頃から二重の幅が小さくなって、最近では奥二重になってしまいました。さらに、上まぶたの外側がより弛みが強く、お年寄りの目つきになってきたと思います。お化粧をしても映えず、実年齢より老けて見えると感じています。何か良い改善法はないものでしょうか?

A) 加齢により男女を問わず、眼瞼の変化が現れ、年相応の顔つきになるものなのでしょう。
特に、上眼瞼の外側の垂れ込みはお年寄りの目の特徴でもあります。
さて、このようなお悩みには、上眼瞼の弛み切除が有効です。治療法としては重瞼線の周囲で、余剰皮膚を切除する切開重瞼形成法と眉毛の下の皮膚を少し多めに切除する、眉毛下皮膚切除法が一般的です。
切開重瞼法では、重瞼線の皮膚を多く切除する場合重瞼の形が不自然になりやすくなります。眉毛下皮膚切除では少量の皮膚切除では効果が少なく、どうしても大きな切開が必要になります。そうすると、場合によっては眉毛の下に目立つ傷跡が残ってしまうことがあります。
そこで、私たちは、まず、眉毛下皮膚切除を行い、上眼瞼を釣り上げます。この時皮膚切除をすこし控えめにしておきます。そうすると、眉下の傷跡は小さく目立たなくできるのです。つづいて、重瞼線では、綺麗な重瞼が確保できる程度に皮膚を少なめに切除するのです。つまり、1箇所で多く皮膚を切除するのではなく、2箇所に分けて皮膚を切除するという方法です。意外にも、このような手術を行う施設は少ないと思います。
しかし、これが、実はとても良い結果を呼ぶことを発見しました。
ですので、あなたにも、重瞼線と眉下部位での同時皮膚切除をお勧めします。

[コメント]

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出典:28p 5図 眼形成手術 高比良雅之・後藤浩 編集 医学書院 2016/11/ 1 発行

上眼瞼とは眉毛の下からまつげの生え際までを指しますが、眉下に近づくほど皮膚は厚く睫毛に近づくほど皮膚は薄くなります。特に睫毛近くのまぶたの皮膚は、人体でもっとも薄い皮膚となります。上まぶたの皮膚は睫毛から1cm くらいはとても薄いのですがそれを超え得てくると徐々に厚くなります。上眼瞼の余剰皮膚を切除するばあい、重瞼線での皮膚切除だけで行うと、重瞼が持ったりした不自然な感じになります。それは、重瞼線の上下で皮膚の厚さが異なるためです。

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また、上眼瞼の余剰皮膚の切除を眉下だけで行うとすると、眉下の傷跡がとても長くなり、場合によっては傷跡が目立ってしまうことがあります。

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そこで、眉下で適量の皮膚切除を行なった上で、重瞼線を考慮しながらここでの皮膚切除も同時に行うと、極めて自然で綺麗な眼瞼が作成できます。また、傷跡がもっとも目だたなくなります。つまり、眉下の傷跡を最小限にしながら、上眼瞼の皮膚の厚い部位を切除すれば薄い皮膚がのこり、自然な風合いを最大限残せるというわけなのです。」

ポイントは可能な範囲で眉下皮膚の切除を行い、不足分の皮膚切除を重瞼線の作成とともにこの部位での皮膚切除を適量行う様にするのです。

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このテクニックは意外に知られていないのですが、極めて自然で美しい目元を作り上げます。

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【術前】

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【術後1年】

症例は術前と術後1年を表しました。目の上のたるみと重さを取りあっさりした重瞼を希望された患者様です。切開重瞼と眉下皮膚切除を行いました。

治療費(モニター価格)45万円

合併症:予定外重瞼線、閉眼障害、傷跡の目立ち、感染、色素沈着、等

傷跡の修正

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傷跡の悩みは多いものです。今回の症例は形成外科での施術でも満足が得られなかったが、より繊細な医師であれば、さらに良くできるではないか、という質問です。

Q)1年ほど前に自転車で交通事故に会い、おでこから鼻の上にかけて傷ができました。かなり出血していましたので、救急車で近くの病院の外科で縫合してもらいました。しかし、その後、傷跡がとても目立つと感じましたので、大学病院の形成外科で修正手術をしました。現在手術後6ヶ月経っています。担当の先生には申し訳ないのですが、私としては、現在の結果が満足できる状態ではありません。今度は美容外科の先生に再手術をしてもらいたいと考えています。より、良くなるでしょうか?

A)美容外科を専門としている医師は、まるで魔法の様に患者の顔を綺麗にしてくれると思う方は多いかもしれません。しかし、そんな魔法は、実は存在しないのです。

さて、縫合技術が優れている外科分野といえば、それは形成外科なのです。したがって、最初の傷跡を形成外科専門の施設で修正したのはとても正しい選択でした。しかし、満足がいかない理由が何点か挙げられます。まず、手術後の経過が6ヶ月だということです。創傷治癒過程では、顔の傷跡が完全に落ち着くのに2〜3年と考えられています。

術後6ヶ月ですと、まだ硬さや色素沈着が残っているはずなのです。

次に、あなたの肌質です。傷跡がとてもきれいになる方もいますが、残念ながら、皮膚が硬い方などは、どうしても傷跡がのこってしまう遺伝的な肌質があるのも事実です。

最後に、形成外科専門医と言われるスペシャリストの中でも美容系を重視する医師と、そこには少し無頓着な医師もいるわけなのです。

さて、回答ですが、あなたが、形成外科専門医の中で美容外科を専攻している医師にうまく出会え、修正を希望すれば、良い結果がでると思います。もちろん、あなた自身のアフターケアも大切です。また、肌質によっては術後処置や投薬をしてくれる美容形成外科専門施設をえらびましょう。カウンセリング時、手術法や術後の状態の説明、アフターケアの方法を丁寧に説明してくれる医師を探しましょう。

[コメント]

傷跡の修正は、形成外科の重要な取り扱い疾患です。ただし、傷跡修正手術はすぐには結果が出ません。場合によっては2〜3年かかることもあります。また、患者様本人の肌質も大きく結果に関係します。もちろん、担当医の熟練性や美容系に精通した医師かどうかも大きく結果に関係するでしょう。

傷跡の経過はおおよそ次のようです。(体の部位によっては経過に差があります。)

 1週間後:抜糸
 310週間程度:傷周囲の赤み、硬さ、盛り上がり、が確認。
 3〜12ヶ月程度:傷周囲の色素沈着(赤黒さや茶色の痣状)。
 1〜3年:ほぼ落ち着いてくる。

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術直後

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術後7日 抜糸直後

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術後30日

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術後6ヶ月

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術後18ヶ月

つづいて、個人の肌質の関係です。人の肌質はかなり違いがあります。ニキビの跡が激しく残っていて「あばた」と呼ばれる事もあれば、まったく跡が残らない方もいるわけです。
傷跡が汚いと言われるのは、創傷治癒期間に膠原線維が過度に増殖してしまうからです。膠原線維の発生度は遺伝的に決まっています。とても残念なことですが、膠原線維が異常に増殖してしまうケロイドという病態もあり、東アジアの人種では3000人に1人くらいの割合で遺伝子が存在するそうです。この場合形成外科専門施設では、ステロイドの瘢痕注射や塗布薬処置、また、トラニラストの内服継続が推奨されています。

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ケロイド(皮膚病アトラスから出典)

さて、美容外科は形成外科の一分野で、少なくとも形成外科学会の専門医が担当するのが妥当なのです。しかし、巷の美容外科は形成外科専門医が少ないのが現状です。ちなみに、米国では美容外科を表簿するのに、形成外科専門医であることが必須とされています。

形成外科専門医は主に人体の体表面の形態の正常化を目的とする外科学です。つまり、人体をなるべく綺麗に美しくする外科ということになります。そのため、形成外科を目指す外科医師はまず、縫合法を身に付けます。それは、きわめて丁寧な手技を必要としまた、そのための必要以上の時間を縫合に費やさなければなりません。

こうして、形成外科専門医を取得したのち、美容外科を目指した専門医はさらに精緻な縫合法や特異な手術技術を身につけていきます。したがって、より美容性の高い手術を希望する患者様においては、日本形成外科学会専門医または指導医の資格のある美容外科医師を選任すると良い結果が生まれると考えます。

はじめに

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酒井形成外科院長の酒井倫明と申します。

形成外科専門医・指導医の資格を保持しています。わたしの日々の診療は形成外科治療が主になります。つまり、形成外科特有の縫合技術を基に、形成外科領域の病気や怪我の手術治療をするばかりでなく、美容外科の治療も行っています。特に美容外科は手術後の傷跡が極めて奇麗でないと成功したと言えないので、形成外科の技術が必須な診療科目なのです。

さて、一般の外科手術では、ある程度決まった手術法があり、多くの外科医はほぼ同じ手術を行うものです。消化器の手術も、呼吸器外科の手術も、心臓外科、脳神経外科でも概ね決められた手術を行うのが習わしです。

もちろん、時々、新しい手術法が開発され、学会で報告され、他の専門医がそれを習得した上で新しい手術法が生まれることもあります。しかし、これもある時間を得て一定の方法論として、学会誌や教科書に記載され、多くの外科専門医が模倣していくわけです。

ところが、形成外科、とりわけ美容外科では、一般論が示す定型手術は「ない!」事が多いと言えます。基本技術はありますが、これを元に、個人の感覚で手術を行うと無数の方法があり、その良し悪しは結果論だけで判断され、特にこれでなければダメという方法がないのです。

これは、電気製品の組み立てや修理、あるいは車の生産や修理が決まった工場で決まった方法で作業されるのに対し、彫刻や絵画といった芸術品は作者の意図だけで完成されるのに似ています。つまり、一般の外科は工業製品に例えられるとしたら、美容外科は芸術品に例えられると思うのです。

美容外科では、患者様の希望は一定ではなく、多様性に富んでいます。それを叶えるのに一定の手術法では同一の結果しか出せません。そこで、形成外科専門医である術者は、いろいろな技術を組合せ個性を出せる手術結果を出そうとするのです。例えていうなら、そこに紡ぎ出される結果は作者である形成外科専門医の作品とも言えるのではないでしょうか。

例えば、二重まぶたの手術をおこなったとして、患者一人一人に対し固有の手術、微妙に異なった手術をおこなっているわけで、一つとして同じ手術は無いのかもしれません。

この、ブログでは、私が出会った数多くの患者様の訴えや疑問、そして私が出した結論的な手術法を徒然なるままに、時間を見計らい書き下ろしてみました。興味がある方へ、すこしでも参考になればと願っています。