傷跡の修正

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傷跡の悩みは多いものです。今回の症例は形成外科での施術でも満足が得られなかったが、より繊細な医師であれば、さらに良くできるではないか、という質問です。

Q)1年ほど前に自転車で交通事故に会い、おでこから鼻の上にかけて傷ができました。かなり出血していましたので、救急車で近くの病院の外科で縫合してもらいました。しかし、その後、傷跡がとても目立つと感じましたので、大学病院の形成外科で修正手術をしました。現在手術後6ヶ月経っています。担当の先生には申し訳ないのですが、私としては、現在の結果が満足できる状態ではありません。今度は美容外科の先生に再手術をしてもらいたいと考えています。より、良くなるでしょうか?

A)美容外科を専門としている医師は、まるで魔法の様に患者の顔を綺麗にしてくれると思う方は多いかもしれません。しかし、そんな魔法は、実は存在しないのです。

さて、縫合技術が優れている外科分野といえば、それは形成外科なのです。したがって、最初の傷跡を形成外科専門の施設で修正したのはとても正しい選択でした。しかし、満足がいかない理由が何点か挙げられます。まず、手術後の経過が6ヶ月だということです。創傷治癒過程では、顔の傷跡が完全に落ち着くのに2〜3年と考えられています。

術後6ヶ月ですと、まだ硬さや色素沈着が残っているはずなのです。

次に、あなたの肌質です。傷跡がとてもきれいになる方もいますが、残念ながら、皮膚が硬い方などは、どうしても傷跡がのこってしまう遺伝的な肌質があるのも事実です。

最後に、形成外科専門医と言われるスペシャリストの中でも美容系を重視する医師と、そこには少し無頓着な医師もいるわけなのです。

さて、回答ですが、あなたが、形成外科専門医の中で美容外科を専攻している医師にうまく出会え、修正を希望すれば、良い結果がでると思います。もちろん、あなた自身のアフターケアも大切です。また、肌質によっては術後処置や投薬をしてくれる美容形成外科専門施設をえらびましょう。カウンセリング時、手術法や術後の状態の説明、アフターケアの方法を丁寧に説明してくれる医師を探しましょう。

[コメント]

傷跡の修正は、形成外科の重要な取り扱い疾患です。ただし、傷跡修正手術はすぐには結果が出ません。場合によっては2〜3年かかることもあります。また、患者様本人の肌質も大きく結果に関係します。もちろん、担当医の熟練性や美容系に精通した医師かどうかも大きく結果に関係するでしょう。

傷跡の経過はおおよそ次のようです。(体の部位によっては経過に差があります。)

 1週間後:抜糸
 310週間程度:傷周囲の赤み、硬さ、盛り上がり、が確認。
 3〜12ヶ月程度:傷周囲の色素沈着(赤黒さや茶色の痣状)。
 1〜3年:ほぼ落ち着いてくる。

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術直後

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術後7日 抜糸直後

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術後30日

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術後6ヶ月

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術後18ヶ月

つづいて、個人の肌質の関係です。人の肌質はかなり違いがあります。ニキビの跡が激しく残っていて「あばた」と呼ばれる事もあれば、まったく跡が残らない方もいるわけです。
傷跡が汚いと言われるのは、創傷治癒期間に膠原線維が過度に増殖してしまうからです。膠原線維の発生度は遺伝的に決まっています。とても残念なことですが、膠原線維が異常に増殖してしまうケロイドという病態もあり、東アジアの人種では3000人に1人くらいの割合で遺伝子が存在するそうです。この場合形成外科専門施設では、ステロイドの瘢痕注射や塗布薬処置、また、トラニラストの内服継続が推奨されています。

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ケロイド(皮膚病アトラスから出典)

さて、美容外科は形成外科の一分野で、少なくとも形成外科学会の専門医が担当するのが妥当なのです。しかし、巷の美容外科は形成外科専門医が少ないのが現状です。ちなみに、米国では美容外科を表簿するのに、形成外科専門医であることが必須とされています。

形成外科専門医は主に人体の体表面の形態の正常化を目的とする外科学です。つまり、人体をなるべく綺麗に美しくする外科ということになります。そのため、形成外科を目指す外科医師はまず、縫合法を身に付けます。それは、きわめて丁寧な手技を必要としまた、そのための必要以上の時間を縫合に費やさなければなりません。

こうして、形成外科専門医を取得したのち、美容外科を目指した専門医はさらに精緻な縫合法や特異な手術技術を身につけていきます。したがって、より美容性の高い手術を希望する患者様においては、日本形成外科学会専門医または指導医の資格のある美容外科医師を選任すると良い結果が生まれると考えます。

はじめに

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酒井形成外科院長の酒井倫明と申します。

形成外科専門医・指導医の資格を保持しています。わたしの日々の診療は形成外科治療が主になります。つまり、形成外科特有の縫合技術を基に、形成外科領域の病気や怪我の手術治療をするばかりでなく、美容外科の治療も行っています。特に美容外科は手術後の傷跡が極めて奇麗でないと成功したと言えないので、形成外科の技術が必須な診療科目なのです。

さて、一般の外科手術では、ある程度決まった手術法があり、多くの外科医はほぼ同じ手術を行うものです。消化器の手術も、呼吸器外科の手術も、心臓外科、脳神経外科でも概ね決められた手術を行うのが習わしです。

もちろん、時々、新しい手術法が開発され、学会で報告され、他の専門医がそれを習得した上で新しい手術法が生まれることもあります。しかし、これもある時間を得て一定の方法論として、学会誌や教科書に記載され、多くの外科専門医が模倣していくわけです。

ところが、形成外科、とりわけ美容外科では、一般論が示す定型手術は「ない!」事が多いと言えます。基本技術はありますが、これを元に、個人の感覚で手術を行うと無数の方法があり、その良し悪しは結果論だけで判断され、特にこれでなければダメという方法がないのです。

これは、電気製品の組み立てや修理、あるいは車の生産や修理が決まった工場で決まった方法で作業されるのに対し、彫刻や絵画といった芸術品は作者の意図だけで完成されるのに似ています。つまり、一般の外科は工業製品に例えられるとしたら、美容外科は芸術品に例えられると思うのです。

美容外科では、患者様の希望は一定ではなく、多様性に富んでいます。それを叶えるのに一定の手術法では同一の結果しか出せません。そこで、形成外科専門医である術者は、いろいろな技術を組合せ個性を出せる手術結果を出そうとするのです。例えていうなら、そこに紡ぎ出される結果は作者である形成外科専門医の作品とも言えるのではないでしょうか。

例えば、二重まぶたの手術をおこなったとして、患者一人一人に対し固有の手術、微妙に異なった手術をおこなっているわけで、一つとして同じ手術は無いのかもしれません。

この、ブログでは、私が出会った数多くの患者様の訴えや疑問、そして私が出した結論的な手術法を徒然なるままに、時間を見計らい書き下ろしてみました。興味がある方へ、すこしでも参考になればと願っています。