治したはずの顎が縮む?? (前編)

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顎の先を「頤(オトガイ)」といいます。頤が後退して輪郭が貧弱に見える方がいらっしゃいます。下顎骨の顎先の部位が引っ込んでいたり、小さかったりするのが原因です。

美容外科の治療法として最も多いのは、頤用シリコーンプロテーゼの移植です。口腔外科では、下顎骨の水平骨切りと、切断した骨片の前方移動と固定を行う医師もいます。

私たちは、厚労省で認可された人工骨であるバイオペクスを使い、これを3Dプリンタで各患者さまにカスタマイズして移植しています。
バイオペクスの最大の利点は、骨置換といって少しずつ、自分の骨に置き換わる性質です。つまり、人工骨を移植すると、一部を除いてそれがご自分の骨になるわけです。
人工骨移植は、頤を自分の骨で増加できるのですから、理想的な手術だと考えています。問題点は、人工骨のカスタマイズに少々面倒な工夫が必要な事くらいでしょう。

さて、今回は、私の診察室で実際にあった症例をご紹介します。

カウンセリングと診断(前編)、そして、手術から1年後の一連の治療を解説してみました。(後編)

Patient: 顎が小さいというか、後ろに凹んでいるのがコンプレクスで、3年ほど前に、他の美容外科で顎にシリコーンプロテーゼを入れてもらいました。腫れが引くととてもいい感じになりました。
しかし、1ヶ月くらい経った頃でしょうか、顎先が少し上に移動した感じを受けました。担当医からは、「良くなったね」といわれたので、こんなものかなと思っていました。
12年くらい前からでしょうか、顎がだんだんへこんできたように感じていました。同時に、顎の先端がやはり上へ移動していると感じたのです。
そして、現在は、あごは殆ど前と同じ位置に戻ってしまったようです。

Doctor: 今、痛みはありませんか?

P: ありません。

D):感覚障害はありませんか?

P: 今はありません。3年前、手術をした直後、下唇と顎にかけて、違和感としびれ感がでました。3ヶ月くらいしたら、徐々に治ってきました。

D):すみません、顎の先を触ってみます・・・。
水などは溜まっていないようですし、腫れもありません。プロテーゼも固定されているようですが、随分小さい感じがしますね。

P: そうなんです。最初の頃は、触っても、ずっと大きかったと思います。

D: では、まず、CT検査を行ってみましょう。あなたの現在の状態がはっきりわかると思います。

*** 2週間後 ***

D: CTスキャンの結果がこちらです。

ago_ct_01.png

ago_ct_02.png

P: ・・・・・。

D: 下顎の先、これが頤部ですね。ここに、凹みがあるでしょ。これは、プロテーゼが入っているところです。
なんで凹んでいるかというと、プロテーゼが骨を押し続けた結果、骨が負けて、プロテーゼが骨に埋まり込んだと考えます。だから、昨年あたりからプロテーゼが小さくなったと感じたわけですね。

P: これって、今後問題が起きますすでしょうか?

D: まだ、すぐに問題が起きるというわけではありません。しかし、ほっておくと、プロテーゼが骨髄まで侵食し、骨が脆くなってしまう危険性があります。
また、骨髄にプロテーゼが侵食すると、これを除去するのが少し難しくなってきます。

P: では、この状態は治療法があるのですね?

D):もちろんです。今は、ハイドロキシアパタイトという人工骨があります。薬事認可を取っている、医療材料です。ハイドロキシアパタイトノペースト状材があり、バイオペクスと呼ばれています。これを使って、あなたの顎の骨の修復が可能です。

P):人工骨!これは危険性や問題点はないのですか?

D: 日本の薬事認可が取られていますから、危険性や副作用は殆どありません。研究によると、ハイドロキシアパタイトは骨に移植されると、少しずつご自分の骨に変わるといわれています。これを骨置換というそうです。
ただし、扱いや形の形成にはコツがいります。
まず、このCTデータから、3Dプリンタを使ってあなたの顎の骨の3Dモデルを作りましょう。これを土台に、あなたに移植する人工骨をカスタマイズします。
凹んだ、下顎骨の修正だけでなく、あなたの理想に近い顎の形態を作成することができます。そして、移植された人工骨はかなりの量がご自分の骨に置き換わるわけです。

(後編につづく)