隆鼻術 (後編)

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隆鼻術は鼻根部から鼻背部、鼻尖部にいたる鼻筋を整えながらこれを高めていく、古来から存続する美容外科手術です。近年、隆鼻術に関して、移植材料の多様性が出てきました。

さて、今回は、安全性や術後の感触など、どの材料、あるいはどのような手術法が最も推奨できるのかという質問です。(後編)

Q) 隆鼻を希望しています。鼻全体が低く、特に、目と目の間の高さがほとんどありません。希望は、私の顔に合わせて自然な鼻筋です。外国の方の様な鼻筋の高さは望んでいません。

最近、相談に行ったクリニックでは、肋軟骨移植を勧めるところと、シリコーンプロテーゼを勧めるところがありました。プロテーゼはいわゆるI 型が良いそうです。また、あるクリニックでは、鼻の付け根は短めのI 型プロテーゼ、鼻先と鼻柱は耳介軟骨の移植がお勧めと言われました。中には、ゴアテックス線維の移植を勧めている所もありました。

ところで、私の友人は韓国で肋軟骨移植による隆鼻術を受けたのですが、鼻全体がカチカチに硬くて不自然と嘆いていました。肋軟骨移植での隆鼻術は一見シュッとして綺麗に見えますが、やはり硬くなるのでしょうか?

酒井形成外科でのご意見を伺いたいと思います。

A) 隆鼻を行う場合、鼻根部(鼻の目と目の間)はもとより、鼻背部も高く修正し、鼻尖部(鼻の頭)ではやや鼻先を尖らせる事が多いと思います。最近では隆鼻のために移植される物質も多様性がでてきました。シリコーンプロテーゼ、肋軟骨、ゴアテックス等が多く利用されています。

この中でも私はシリコーンプロテーゼがもっとも安全性に長けていると考えています。しかも現在のシリコーンプロテーゼはかなり柔らかく組織になじみ易くなっていて、移植後の問題点は激減しています。プロテーゼとともに鼻尖部に自家組織である耳介軟骨や筋膜あるいは真皮を使用すれば鼻尖部の形態を整えた上で安全性も確保できます。プロテーゼがもっとも優れているところは、もし、これを除去する場合、きわめて簡単に切除できることです。

移植材料に関しては研究がなされ新しいものが開発され続けています。いずれは、ゴアテックスやシリコーン、肋軟骨にかわる新しい医療材料が開発されるはずです。その時、新しい素材に変更する場合でも、シリコーンプロテーゼであれば、たやすく交換ができるでしょう。

ゴアテックスや肋軟骨は除去が困難な上に、肋軟骨では、移植後の変形も問題視されています。さらに、これらの素材は鼻尖部や鼻柱の異常な硬さも問題です。

鼻のシリコーンプロテーゼといえばL型仕様とI型仕様があります。近年I型を選択する医師が多いと思いますが、実はそれぞれ欠点と利点があります。L型は鼻根部を骨膜下に固定したうえで鼻中隔部にも固定できるため、プロテーゼが曲がることなく安定して固定されます。しかし、鼻尖部の皮膚に負荷がかかり易く、場合によっては皮膚の破裂やプロテーゼの脱出の合併症を招きます。I型は鼻根部だけで固定されるためプロテーゼが曲がり易く(プロテーゼの変位)、また、短いプロテーゼであれば、鼻尖部は軟骨の移植等でおぎなわねばなりません。もし、長いI型プロテーゼを使用すれば、鼻尖部はL型と全く同じになり、鼻尖部皮膚へ影響を与えてしまいます。したがって、I型プロテーゼによる隆鼻術では、短いプロテーゼを選択し、鼻根部ではプロテーゼで隆鼻を行うものの、鼻尖部は耳介軟骨の移植等で形成を余儀なくされます。この場合、プロテーゼを除去する場合は一度鼻尖部を大きく広げる必要があり、修正は面倒になります。

そこで、私は、とても柔らかいL型シリコーンと耳介軟骨や真皮を利用したハイブリッド手術を提言しています。これは、鼻根部は適度な高さのシリコーンプロテーゼ、鼻尖部は極めて薄くしたシリコーンプロテーゼに耳介軟骨と真皮をのせた状態、鼻中隔部や鼻柱部は極めて細くしたシリコーンプロテーゼに軟骨や真皮を巻きつけてシリコーンが鼻尖部皮膚を障害することを防ぎます。このハイブリッド手術では、鼻腔内の鼻柱部を少量切開するだけで簡単にプロテーゼを除去できるのが最大の特徴になります。また、鼻尖部はほぼ、耳介軟骨と真皮で形成されるため、軟骨単独移植よりとても柔らかく自然な感じが表現できるのも長所ということができるでしょう。

そして、簡単にプロテーゼが除去できることは、将来の新しい隆鼻術への変更の容易さにもつながります。

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隆鼻症例:隆鼻と鼻尖形成を希望された患者様です。シリコーンプロテーゼと耳介軟骨、真皮移植を伴うコンポジットグラフトで形成しました。

手術費用(モニター価格)50万円

合併症、リスク:感染、皮膚の血行障害、皮膚潰瘍、プロテーゼの位置異常、血腫、色素沈着、等

[コメント(後編)]

隆鼻で使用する材料の選択

1)肋軟骨移植

日本の形成外科では、鼻のみならず、耳介や顔面の一部の再建に肋軟骨を多用してきました。その結果、肋軟骨が数年で変形してくることは形成外科専門医であればよく知っていることなのです。ですから、隆鼻や鼻尖形成で、肋軟骨を使いたがらない専門医は多いはずです。また、肋軟骨移植後の変形修正には少なからず難渋することが多く、安易に肋軟骨を移植するのは問題があると考えます。肋軟骨移植での隆鼻・鼻尖形成は術後早期では、実に綺麗に仕上がります。しかし、本来の柔らかさが無く、硬い感触の鼻になり、これをいやがる患者様も多く見受けられます。

2)ゴアテックス

ゴアテックスは厚労省で認可された医療材料で、筋膜、腹膜、脳硬膜、などの人体の膜組織の代用としてひろく応用されています。組織親和性がよく安全性も高いと言われています。

隆鼻にも応用されていますが、一つだけ問題点があります。それは、除去が困難だということです。もし、二度と鼻の形を変えないというなら、ゴアテックスも良い材料になるでしょう。しかし、ゴアテックス移植後、修正を希望する場合は、かなりの問題を提起します。隆鼻術はまだ、発展途上といえますので、今後、手術法や材料にも大きな変化が出てくると思います。その時、ゴアテックスが除去できない、あるいは、除去する際大きな変形を伴うとしたら、これは問題になりそうです。

3)耳介軟骨

両側の耳介軟骨をうまく採取しても、その絶対量が不足しがちですので、きれいな隆鼻と鼻尖形成を完成させるには無理がありそうです。

4)人工骨

ハイドロキシアパタイトの顆粒状材料です。骨性組織である鼻根部の隆鼻にはきわめて良い結果をもたらします。ハイドロキシアパタイトの顆粒はいずれ自家骨になりますので、安全性が高いといえます。しかし、鼻尖部や鼻柱、さらに鼻背部の下半分には移植が困難なため、耳介軟骨の移植とともにデザインをしなくてはなりません。万が一、修正の場合は、移植人工骨を削り取ることは可能です。

5)シリコーンプロテーゼ

初期のものは人体の鼻背軟骨の硬さを模倣したため、硬すぎてしまいました。現在のものはかなり柔らかくなり、皮膚への刺激も激減しました。鼻根部では鼻骨骨膜下に固定し、L型では、先端部を鼻中隔部に固定できます。(I型では鼻中隔部に固定できません)

また、L型の鼻尖部や鼻柱部に耳介軟骨や真皮を接着して移植すると、簡単に直軟骨による鼻尖形成や鼻柱形成、あるいは鼻中隔延長術が可能です。
さらに、必要に応じ、鼻腔内の少量の切開で比較的簡単にプロテーゼを除去できます。このことは、将来、新しい材料との交換が簡単であることを示唆します。

L型とI型のシリコーンプロテーゼの比較

I型シリコーンプロテーゼ

鼻根部から鼻背部の上部へ移植するプロテーゼです。鼻骨の骨膜下のみで固定されるため、プロテーゼの下方移動や左右のブレ移動がおこりやすい事が欠点です。また、移植は簡単でも、除去の際、プロテーゼが見つかりにくいことも欠点となるでしょう。しかし、鼻尖部にはプロテーゼが届かないため、鼻尖部皮膚の菲薄化が起こりにくく破綻も少ないのが利点です。

fig1.pngI型プロテーゼは鼻骨の骨膜下に固定されています。

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骨膜がプロテーゼから浮いていたりすると、I型プロテーゼは容易に左右に変位してしまいます。
プロテーゼの変位では、鼻が曲がって見えたり、鼻尖部が変形したり、場合によってはL型と同様に鼻尖部皮膚の崩壊を招くことがあります。

2)L型シリコーンプロテーゼ(先端を薄くした場合)

L型プロテーゼをインプラントする場合は、鼻根部では鼻骨の骨膜下に固定し、鼻尖部では鼻中隔にも固定します。鼻尖部にボリュームを残せば、鼻尖部を尖らせるようにできます。もし、鼻尖部でのシリコーンのボリュームを少なくすれば、鼻尖部はほとんど変化することはありませんし、鼻尖部皮膚の影響を与えることも少ないと考えます。

fig3.png3) L型シリコーンプロテーゼ(先端で鼻尖を作る場合)

通常L型プロテーゼは鼻尖部が尖るように厚さがあります。これをこのまま鼻に移植すると鼻尖部は尖り、綺麗に見えますが、後日、鼻尖部の皮膚を菲薄化させ、最終的には鼻尖部を破綻させることがあります。

fig4.png5) L型プロテーゼを利用したハイブリッド仕様
(プロテーゼと耳介軟骨、真皮を利用したコンポジットによる隆鼻)

柔らかいL型シリコーンプロテーゼの鼻尖部に、ご自分の自家組織である耳介軟骨と真皮を接着しコンポジット(複合体)を作成します。これをシンプルに鼻筋に移植する手術は極めて単純です。コンポジットの作成は人体外で行われますので、手術中の不快感はとても少ないのです。コンポジットの作成には職人技が必要とはいえ、移植はシンプルですので手術時間も短くて済みます。

また、シリコーンプロテーゼは簡単に除去できますので、将来の新素材への交換もたやすく行うことができます。

fig5.png隆鼻の新しい材料とは?

今後医学はまだまだ発展し続けます。当然医療材料もいろいろ試行錯誤されるでしょう。

私が特に注目しているのが、培養軟骨です。まだ、実現はしていませんが、必ず隆鼻の材料として注目されると思います。

おそらく、少量の耳介軟骨とあなたの血液があれば、数ヶ月で20cm2程度の軟骨を作ることができるでしょう。場合によっては培養真皮や人工骨も利用されるでしょう。

再生医療は現在最も注目されている分野でもあります。近い将来、再生医療にを応用した隆鼻手術が実現するかもしれません。